第17章 【縁下 力】隣の席は縁下くん
「じゃぁ、これ運んどいてくれ」
私は段ボールに入った機材を持って放送室に向かっていた。
「佐藤さん?」
廊下の向こうから近付いて来たのは縁下くんだった。
私の両手にかかる負荷が急に軽くなった。
「どこに運ぶの?」
「あっ…放送室」
「わかった」
私の両手から段ボールがなくなって、
この手をどうしたら良いのか分からないまま、
私は縁下くんの後をついて放送室まで行った。
「どうもありがとう」
「いえいえ」
やっぱり優しいな、縁下くん。
私は彼の優しさに心が温かくなった。
「そういえば、そろそろインターハイだね」
「あぁ、そう・・・っぶ!」
急に思いだし笑いをした縁下くん。
私がどうしたの?って聞くと、
笑いが止まるのを待ってから、口を開いた。
「田中のやつがさ、彼女いたらもっと頑張れるのに~
ってバカなこと言っててさ」
「あはっ!田中くんらしいね」
二人でお腹を抱えて笑った。
私たちは教室に戻りながらさっきの話の続きをした。
「縁下くんは田中くんみたいには思わないの?」
「あぁ…まぁ居ればいいとは思うけど、
田中のとは、ちょっと違うかな…」
「ふふふ。じゃぁ、どんな子が好きなの?
っていうか、好きな子とかいたりするの?」
ガラガラ
縁下くんは教室の扉を開けて、
自分の席においていた部活道具を手に取った。
「うーん。俺は佐藤さんかな」
「えっ!?」
「だから、俺が好きな子は佐藤さんだよ?」
それじゃぁ、また明日。と縁下くんは部活に行ってしまった。
私は心臓が止まりそうなくらいびっくりして
その場にペタンと座り込んだ。
「縁下くん…ずるいよ」
私は誰もいない教室で、
顔の火照りを冷ましてから教室を出た。