第16章 【西谷 夕】俺が100歳になったら…
「大丈夫か?」
頭がクラクラする。
私は南くんに連れられて、自分のアパートへ帰っていた。
「…な、なぁ。佐藤。
こんな時に言うのもなんなんだけど…
俺さ、ずっと佐藤の事、す・・・あれ?」
南くんが何かを言おうとしていたみたいなのに、
急に話すのをやめた。
私はふと顔をあげると、アパートの前には夕くんが立っていた。
「ゆっ、夕くん…」
夕くんは私の前まで来て、
あのまっすぐな目で私を見た。
「俺はどう頑張ってもひろかとの年の差は埋められねぇ。
けど、俺はひろかが40歳でも50歳でも60歳のばぁちゃんでも、ひろかが好きだ!
ひろかも高校生の男じゃなくて
『西谷夕』を見ろよ!」
夕くんの言葉がすごく嬉しくて、涙が止まらなかった。
夕くんが両手を私の頬に当てて、
俯いた私の顔を上げた。
「余計なこと考えるなよ。
俺だけを見ろ。俺だけを感じろよ」
な?と夕くんはそうやって、
いつも、まっすぐな目で私を見るんだ。
「…私も夕くんが好き。大好き…」
ポロポロと涙がとめどなく流れた。
夕くんが私を抱きしめて、言ってくれた。
「俺が100歳になったら、ひろかは100ちょっとだろ?
あんまり変わんねぇよ」
「なにそれ…」
私は夕くんの腕の中でくすくすと笑った。
「…ということで、ひろかは俺の彼女なんで、
金輪際、ちょっかい出さないでください!」
そうだった。
南くんの存在をすっかり忘れていた。
「ハハっ!…ガキが!俺も負けねぇよ!
…ただ、今日の所は身を引くよ」
そう言って南くんは帰って行った。