第13章 【月島 蛍】あの人は…
「あれ…?月島くん?」
ふと顔を上げると、僕の顔を覗き込む人がいた。
「…ども」
「今日は山口くんと一緒じゃないの?」
「…いや、別にいつも一緒ってわけじゃ…」
そう言う僕に、そっかごめんごめん。
と僕が座っていた隣のベンチに腰をかけた。
本を読みながら、風に吹かれて乱れた髪を耳にかける。
そんな姿に目が離せなくなった。
僕の視線に気づいたのか、
こっちを向いて首をかしげた。
「…いや、その…何読んでるんですか?」
「あぁ、これ?」
そう言ってカバーを僕の方に向けた。
「最近ハマってるミステリー」
「へぇ…」
「月島くんはいつも何聴いてるの?」
「いや…」
その人は渋る僕の前まで来て、
そっとヘッドフォンを自分の耳に当てた。
コードの長さが足りなくて
距離がすごく近くなる。
「えっ…これって…GX?」
「…知ってるんですか?」
「私、大好きなの!」
マイナーなバンドの曲で、
大抵の人は知らない。
だから、よく女子に何を聴いてるか聴かれても答えたりしなかった。
予鈴がなるまで、2人でそのバンドの話をした。