第94章 【矢巾 秀】恋に恋して
「ねぇ、理香。やっぱりお家にお邪魔するときは手土産持って行った方がいいよね?」
「そうだねぇ~。こないだ駅前に出来たケーキ屋さん美味しいって聞いたよ?」
昼休み、佐藤と理香が話し込んでいる所に矢巾が顔を出した。
「お前さ、男の家に行くってどういう意味か分かって言ってんの?」
ガタンと音を立てて近くのイスに腰をかけ、佐藤の方を見る矢巾。
佐藤はムスっとした顔で矢巾を睨み付けた。
「矢巾、最低!川崎さんは矢巾みたいに変なこと考えてません!」
「そんなの分かんないだろって!ってか、まだ付き合ってない女を普通家に呼ぶか?下心ありまくりじゃねーかよ!」
しばらくにらみ合いが続き、沈黙を破ったのは佐藤だった。
「も、もし川崎さんに下心あったとしたっていいもん!好きだから何されたっていいもん!!」
そう言って佐藤は教室を飛び出して行った。
「あぁー、もうっ!!」
矢巾を頭を掻きむしり、机にうつ伏せた。
「何今さら怒ってるの?セッティングしたの矢巾でしょ?」
理香は矢巾から目線を外してため息をつく。
そんな彼女を見て矢巾もため息をついた。
「だって、あんな風に頼まれたら断れないだろ…」
背中を丸めて落ち込む矢巾。
理香は立ち上がって、そんな矢巾の背中をポンポンと叩いた。
「俺、お前みたいな奴好きになれば良かったよ…。あいつは鈍感過ぎ」
「矢巾が私を好きになったからといって、私が矢巾を好きになるとは限りませんけど?」
「お前…。そこはもっとフォローしろよ」
理香はもう一度矢巾の背中に手を当てた。
「矢巾って本当バカだよね。まぁ、人のこと言えないけど・・」
そう言うと理香はポンポンと手のひらを優しくバウンドさせ、教室を出て行った。
「どうしろって言うんだよ・・・」
矢巾は理香の背中を見つめながら、もう一度ため息をついた。