第94章 【矢巾 秀】恋に恋して
「はぁ…恋したーい!!」
佐藤ひろかは両腕を天井に突き上げ身体を伸ばす。
「高校に入ったら恋できると思ったのになぁ…」
「また始まった…」
そんな彼女を呆れた顔で見ているのが親友の理香だ。
「だって私こんなんだし、中学では全く青春っぽいこと出来なかったんだもん!!」
佐藤は極度の人見知り。
中学時代友達はいたものの、憧れていた先輩には声すらかけられずに3年間を終えていた。
「恋したいだなんてよく言うよ。未だに人見知り治ってないくせに!」
「・・けど!けどね!!理香と友達になってからは少し成長したんだよ?だって理香友達多いから自然と人集まってくるし…」
高校入学当初もなかなか自分から声をかけられずにいた佐藤に救いの手を差し伸べたのが理香だった。彼女は佐藤とは対照的で社交的。男女共に友達は多かった。
「入学式の時、話しかけてくれた理香が女神に見えたよー」
「大袈裟な…」
「いや、マジだって!……あっ、矢巾、おはよー!」
そんな二人の元にやってきたのが朝練を終えた男子バレー部の矢巾秀。
「おはよ」
矢巾は欠伸をしながら、佐藤の隣の机に腰をかけた。