第93章 【国見 英】キャラメルの香りあなたの香り
「…先生、キャラメル食べました?」
まぶたの出血具合を確認している先生からはキャラメルの香り。
「あっ、バレた?」
先生は悪戯がバレた子供のように笑った。
ねぇ、先生?
先生は鈍感だから、俺の気持ちなんて知らないんでしょ?
頭痛は辛いのに、先生に会う口実になるから頭痛が嫌いじゃない。
キャラメルを食べるようになったのは、先生を思い出せるから。
そして俺からもキャラメルの匂いがしたら、先生がキャラメルを食べる時に俺を思い出してくれるんじゃないかと思ったから。
普段は大人の女性なのに、キャラメルを食べた時の顔が幼くて好き。
いつもニコニコしているけど、暴言を吐く時は鬼のような顔をする所も好き。
けど、キャラメルを食べただけで機嫌が直る所はもっと好き。
表情をコロコロ変えて、自分の気持ちに色んな意味で正直な先生が大好き。
高校生は年上に憧れるなんて言うけれど、俺は先生が同級生だったとしても好きになっていたと思う。
誰もいない教室でプリプリ怒っている所を目撃。
その後キャラメルを食べて機嫌が直る。
俺は教室に入って行って、口止めのキャラメルをもらって二人で笑い合うんだ。
素敵な学園ストーリー。
なんで先生は俺と同じ年代に生まれてきてくれなかったの?
なんで俺は先生と同じ年代に生まれてこれなかったの?
そんな意味のない事を考えたりはしない。
「ねぇ、国見くん。そろそろバレンタインじゃない?好きな子からもらえるといいね」
先生はそう言ってキャラメルを一つ俺に手渡した。
秘密ね?と人差し指を口の前に当てる。
キャラメルの包み紙を開けて、口の中に放り込む。
先生が一番好きな塩キャラメルだ。
塩っ気がキャラメルの甘さを引き立てる。
あぁ、そうか。
俺の先生への想いと一緒なんだ。
実らぬ恋が塩っ気で、先生への恋心が甘さだ。
実らぬ恋だから俺の恋心はもっと甘いものになるんだ。
俺は鈍感な方ではない。
むしろ敏感な方だ。
ただ、気付いていても顔に出さないだけだ。
「先生、俺好きです」
「えっ…?」
「塩キャラメル」
TheEnd