第92章 【矢巾 秀】俺はピエロ
「さっむ・・」
俺はゴミ捨てじゃんけんで負けて、真冬の寒い中コートも着ずに外へ出た。
急いで校内に入り、上履きに履き替える。
ふと顔をあげると、彼女の姿。
短めのダッフルコートに赤チェックのマフラーをしている。
俺は彼女とすれ違う右側に持っていたごみ箱をわざと左に持ち替え、彼女の存在に気付いてないかのように歩き出した。
彼女との距離が近づくたびにドクンドクンと心臓が鳴る。
ふわっと彼女のコロンの香りがしたかと思ったら、
寒くてかじかんでいた手に、彼女の暖かい指が絡まった。
一瞬手を握ったかのようになって、ふわっと撫でるように全体を覆って離れて行った。
ゾクッとするくらいの驚きで、自分の心臓が跳ね上がる。
バッと後ろを振り返ると、彼女はまたこっちを見て舌を出して笑った。
そして、玄関へ走り出す。
一瞬俺と繋がれた手。
その手を玄関で待っていた彼氏と繋いだ。
彼女は天使のような悪魔。
分かっていて彼女に恋をしている。
俺は、ピエロだ。
TheEnd