第85章 【澤村 大地】あの頃の幸せ
「・・でも、惜しいことしたな。こんなことになるなら、中学の時、佐藤に告白しておけば良かったな」
ハハハと笑って、私を見る。
「私も、あの時澤村に告白してたら…澤村と結婚してたのかな?」
その言葉を発した瞬間、必死で堪えていた涙が流れ出して、澤村の胸に顔を埋めた。
「佐藤・・・」
澤村は私の頭を撫でた。
そして、顎をゆっくりと上に持ち上げられ、頬の涙を拭ってくれた。
見つめる澤村の顔は切なそうな顔で、今自分と同じ気持ちなんだと感じることが出来た。
「澤村・・・」
「・・そんな顔で見るなよ」
困った顔をしながら一度目を瞑って、ゆっくりと口を開いた。
「・・いいのか?」
私は首を縦に振って、目を閉じた。
数秒後、冷え切った私の唇に澤村の唇が当たり、目を開ければ優しく微笑む澤村がいて、また涙が流れてくる。今度は涙を拭うことなく、後頭部を腕で支えられながらの深いキスをしてくれた。
さっきまで冷え切った身体が熱くなって、ただただ澤村を感じていた。
ホテルの前に着いて、私たちは再びぎゅっと手を握った。
「澤村・・私・・」
「・・あぁ。元気でな?」
澤村はそう言って私の頭を撫でた。
「俺たちはあの頃の二人じゃない」
「うん。・・今日会えてよかった」
私は笑顔で澤村を見上げた。
澤村も笑って繋がれていた手を離した。
「俺もだよ。・・幸せにしてもらうんだぞ?」
私の肩に手を置いて、じゃぁな。と私に背を向けた。
「もしもし?うん。今ホテルに戻ってきたよ」
「うん、楽しかったよ。明日帰るから、帰ったらあなたの好きなシチュー作って待ってるね」
「・・ねぇ。愛してるよ」
「えっ!?うん。何でもない。急に言いたくなっただけ。うん。じゃぁ、お休み」
私はパラパラ降る雪を見上げながら、あの頃の幸せではなく、今ある幸せを噛みしめた。
「澤村、幸せになってよね」
TheEnd