第82章 【東峰 旭】厚かましいお願いですが、宜しくお願いします。
私の朝は早い。
朝一の仕事は神社の落ち葉の掃除。
「・・寒い」
箒を取り出し、ザッザッと落ち葉を集める。
「あっ…またあの子来てる」
ここ最近、うちの神社に毎朝お参りに来る男の子がいた。
大きな身体で長い髪を束ねていて、いつも眉間にシワを寄せて、猫背で歩く彼の姿はすごく怖かった。
何を一体お願いしているのか。
もしかして、今度の決闘とか…?いや、不良が決闘の勝利祈願とかする?
私は掃除をしているふりをして、彼の顔を覗ける位置まで行った。
手を合わせている彼の顔はとても必死な顔。
けど、怖いと言うよりも可愛い感じ…?
ふと彼が私の存在に気がついて、ペコっと頭を下げた。
あれ?そんなに怖い子じゃないのかな?
私もペコっと頭を下げると、少し照れくさそうに彼は笑った。
「あの・・・いつも何をお祈りしてるんですか?」
私がそう尋ねると、彼は頭を掻きながら口を開く。
「友達の・・・合格祈願を・・・」
「えっ・・自分のは?」
あっ…忘れていたと笑う彼。
「でも、俺は就職予定なので…。それにそんなにたくさんのお願い、厚かましくて出来ません…」
自分の事よりも人の事をあんなに一生懸命願う彼を見て私の心はほっこりした。
私は彼の横に並んで手を合わせた。
「えっと・・・あなたお名前は?」
「東峰・・旭です」
私はもう一度手を合わせる。
「旭くんの就職がうまくいきますように・・・」
ゆっくりと目を開けて彼を見ると、驚いた顔で私を見ていた。
「代わりに私が毎日旭くんのことお祈りしておくね?」
私達はハハハと笑った。