第77章 【影山 飛雄】アンダンテ カンタービレ
「・・飛雄は?私に不満とかある?」
手のひらで頬を仰ぎがならひろかを俺に聞いた。
俺はカバンの中からアレをひろかの前に出した。
「これ、何か分かるか?」
「・・・えっ?」
知らない様子のひろかにアレの用途を説明すると、ひろかの顔が更に赤くなった。
「お前はさ、こういう事したいって思うのか?」
俺の問いに戸惑いながらも、ひろかはゆっくりと口を開いた。
「・・分からない。周りの子は飛雄が手を出してこないのはおかしいって言うの。…でも、私は飛雄と一緒にいれるだけで幸せだし…いや、そういう事したくないって言ってるわけじゃないの。初めてはやっぱり飛雄がいいって思ってる。…でも、その・・・」
必死に思いを伝えるひろか。
そして、その思いが自分と全く同じであったことが嬉しくて仕方がなかった。
「本当はね、今日、もし飛雄がその気なら覚悟決める予定だったの。…でもやっぱり怖いや」
ごめんね。と謝る彼女を俺はぎゅっと抱きしめた。
「・・・俺も、初めてはひろかがいい。けど、無理して・・するつもりもない」
俺たちは見つめ合って笑った。
「ねぇ、飛雄?・・16歳の抱負は?」
「全国に行く!!」
「・・・やっぱりバレーなんだね」
ヤバい。
そう思ってひろかを見たけど、ひろかは嬉しそうに笑っているだけだった。
頑張ろうね。そう言うひろかがとても愛おしかった。
「飛・・雄?」
ひろかが愛おしい。
こんなにも誰かを愛おしく思ったのはひろかが初めてだ。
俺はひろかの頬を両手で包み込み、ゆっくりと二度目のキスをした。
「飛雄。・・・生まれてきてくれてありがとう」
誕生日を祝われたことはあっても、お礼を言われたのは今日が初めてだ。
これからも、初めてはずっとひろかと一緒がいい。
心からそう思った。
テーブルの上に置かれたアレをいつか使う日が来るのかもしれない。
けれど、今は俺たちのテンポで少しずつ進んでいきたい。
TheEnd