第67章 【東峰 旭】Unstable us.
どこか集中できるところは無いかと校内を歩いていると、急に誰かに手を引かれた。
「東峰くん!?」
ガタンと勢いよく扉が閉まり、私は東峰くんの腕の中に収まった。
苦しい。東峰くんの私を抱きしめる力がすごく強くて息が苦しくなるほどだった。
「ひろか先生、ごめん。さっきチラッと見かけて、会いたくて会いたくて追いかけて来ちゃいました…」
私も会いたかった。そう言いたかったけど苦しくて言えなくて、私はそっと彼の背中に手を回した。
「ひろか先生。俺さ、ずっと不安で。声が聞きたくて何度も電話しようとしちゃったり、会いたくて会いたくて胸が苦しくなったりして。ダメだって分かってても、今だってこうやってひろか先生に会いに来ちゃって…」
震える東峰くんの声を聞いていると私まで泣きそうになってしまう。そして、東峰くんも私と同じだけ会いたくて苦しんでいてくれたんだと思うと、更に涙が込み上げてきた。
「ひろか先生にとって俺はまだまだ子供だし、本当に俺でいいのかな、とか考える。でも、俺はひろか先生が好きで諦めることなんて出来なくて。先生…ごめん。俺、ひろか先生が好きでおかしくなりそう…」
東峰くんの真っ直ぐな想い。
嬉しくて嬉しくて、ただただ涙が出た。
彼の言葉は何の偽りもなく私を包み込む。
大人への憧れがどーだとか、
なんか急にどうでもよくなった。
今、私を抱きしめてくれているのは間違えなく東峰くん。それだけで充分だ。
こんなに苦しいのは貴方が好きな証拠で、
こんなに涙がでるのは貴方が大事だという証拠で、
こんなに暖かい気持ちになるのは貴方が私の好きな人という証拠。
そんな簡単な事も忘れて、
東峰くんの気持ちを疑い、
自分ばかりが辛いと思っていた。
「私の方が東峰くんのこと好きだよ…?」
私がそう言うと、東峰くんは抱きしめていた腕を少し緩め、私の顔を見た。
「俺の方が好きです…」
「私の方が好きだもん!」
私達は泣きながら笑って、お互いに涙を拭いあった。
「ねぇ、ひろか先生。俺が卒業したら……」
「ん?」
「ううん、何でもない」
まだまだ不安定な私達。
強くならなきゃ。
私達は繋いだ手を強く握った。
TheEnd