第66章 【東峰 旭】過ちて改めざる是を過ちという
「おぉーい、旭!まだかー!!」
廊下から誰かの声がして、私達は咄嗟に教卓の中に隠れた。
ガラッと扉が開く音がして、誰かが教室に入ってくる。その足音がどんどん近くなってきて、私の心臓はバクバクと大きく振動する。
「旭かぁ?電気消さないで教室出たのは!大地~、旭もう教室にいないっぽ~い」
カチっという音と共に教室の電気は消され、その生徒は教室を出て行った。
私達は同時に大きなため息をつく。
ふと彼を見上げると、狭い教卓の中で密着していたことに気がついた。
「わっ、ごめん!」
私が勢いよく東峰くんから離れようとすると、危ない!と言う声がして、東峰くんの手が私の後頭部を支えた。
ガンッという痛々しい音がするけど、私の後頭部に痛みはない。
「っ痛・・・」
その反面、東峰くんは眉間にしわを寄せていた。
「だっ、大丈夫?どうしよう!骨折れてない!?」
私は東峰くんの赤くなった手を擦った。
バレーボールをやる大事な手。何かあっては大変。
「ひろか先生・・あの、あまり触られると、ちょっと…」
彼の言葉にふと顔を上げると、彼が照れながら私を見つめていた。
「・・・ごめんなさい」
「・・・あっ、いえ」
どうしよう。早く、教卓の中から出なきゃ。
そう思っているのに、どうして身体が動かないのか。
どうしてこんなにドキドキしているのか。
「・・ひろか先生」
ダメだ。彼を見てはいけない。
なのにどうして私は顔をあげてしまうんだ。
「ダメだよ・・・ダメだから」
「・・ダメ、ですよね」
「・・・うん」
お互いに言葉ではダメだと言っているのに、ゆっくりと顔が近くなっていく。
東峰くんの顔が少し角度を変えて、先生ごめんと小さく言った。私はその声を聞きながらゆっくり目を閉じ、彼の唇を受け入れた。
「・・・ひろか先生?」
私を抱きしめながら、彼が耳元でそう囁く。
「ダメだよ」
「ダメ、ですよね」
「うん」
過ちて改めざる是を過ちという。
私達はもう一度過ちのキスをした。
TheEnd