第66章 【東峰 旭】過ちて改めざる是を過ちという
私は佐藤ひろか。
今日から社会人デビューです。
私の赴任先は烏野高校。
1年目という事もあり、3年3組の副担任を任された。
・・と言っても、担任の先生について勉強させてもらうだけで、任されるというようなカッコイイものではない。
「佐藤先生。緊張せずにリラックス!」
教室に向かうまでの廊下で担任の先生にそう励まされた。
教室に入ると、生徒達の視線が一気に見慣れない私に向けられて、前日に考えた挨拶を頭の中で何度もリピートした。
結局ちゃんと練習通りに出来たのかあまり覚えていないけど、生徒達は拍手をしてくれていた。
「みなさんの事をたくさん知っていきたいので、みなさんとの交換日記をしたいと思います!」
私はそう言って、新品のノートを生徒達に配った。昔私が大好きだった先生がやっていたのをマネたのだ。
もちろん予想通り、面倒臭いなんて言葉も飛び交ったけどそんなの気にしない。
「1日一言でいいから何か書いてくださいね?」
私が笑顔でそう言うと、みんな渋々承諾してくれた。
始めは興味本位で色々書いてくれた生徒も、日が経つにつれてどんどん少なくなっていった。
眠い。とか、疲れた。とか、あ。とか。
まるで持論をSNSで叫んだのに、誰からもコメントがもらえなかった時のような、虚しさがこみ上げたりもする。
しかし、一言でいいと言った手前文句は言えない。
それでも、何かあった時にこのノートが救いの手になったりしたらいいな。なんて、自分のモチベーションを上げていた。
「あっ、東峰くんだ」
次に開いたノートには、見慣れた字が並んでいた。
字を見ただけで誰か分かってしまうのは、彼が毎日ちゃんとノートを書いてくれるから。
彼はいつもバレーの事とか、澤村くんに怒られた事とか、好きなラーメンの事とか。毎日いろんな事を書いてくれていた。
前には青信号の点滅は何であんなに短いのか。おばあちゃんが渡りきれなくて可哀そう。と書いてあった。
彼の優しさが身体中に伝わって、その日1日、私はなんだかふかふかのベッドの上で眠っているような、そんな気分になったのを覚えている。
大きな身体で見た目も厳つい感じの印象だった東峰くん。けど、彼を知れば知るほど優しさに溢れた男の子で、仕事で疲れた私をいつも彼の字が癒してくれていた。