第62章 【花巻 貴大】男と女
今日は月曜日。
俺は朝練前にコンビニに寄って、週刊少年誌を買う。
休み時間に読んだり、授業中こっそり読んだり、昼休みに昼飯食いながら読んだり。
放課後までには全部読み終えるんだ。
あいつが来るから。
「花巻ー!」
ほら来た。
彼女は佐藤ひろか。
違うクラスの女。
部活はバスケ部。エースらしい。
「ほらよ。もう全部読み終わったから持って帰ってもいいけど?」
「ううん。早く読みたいから読んでから帰る」
そう言って俺の壁側の席の前に座って少年誌を開く。
佐藤がハマっているマンガのネタばらしをしようとすると、すごい勢いで怒り出す。それを見て俺は笑う。いつものやりとりだ。
よいしょ、という声と共に壁に背を付けて椅子の上に体育座りをする。
「お前、スカートだろ」
「中にジャージ着てます~」
ベーっと舌を出して、わくわく顔で少年誌に食付いている彼女にバーカと心の中で舌を出す。
あれは3年の春。
没収された少年誌を返してもらいに職員室に行ったら、同じ少年誌が2冊積まれていた。後からもう一冊の持ち主が現れた。それが佐藤だった。
学年主任の先生にこっ酷く怒られて、その後話したこともなかった彼女と職員室を出た。
教室まで向かう廊下。
特に会話はなかった。
気まずい。そう思って話しかけようとしたら、急にあいつが口を開いた。
「今回の新連載どうだった?」
「・・・は?」
「いや、私的には結構期待してるんだよね!」
さっきまでこっ酷く怒られていたのに、そんなことなかったかのようにマンガの話をし始めた。そこから教室までずっとマンガの話をして、教室前で別れた。
「変な女…」
それから1か月後くらいだったか、
部活終わりに松川と一緒に帰っていると松川を呼ぶ声がして、振り返るとあの時一緒に怒られてた彼女がいた。
あっ・・・
お互い一度停止した。松川の声がかかるまで。
その日から何かと話をするようになって、同じ少年誌買ってるなら週ごとに交代で買おうという流れになったのだ。
少ないお小遣いの節約にもなるし。
そんな動機だ。