第56章 【及川 徹】恋は自己愛
「そういえば、徹。また彼女と別れたの?」
「まぁーねー」
「なによそれ」
「だって俺モテるもん。兄さんと違って!だから別に問題ないよ~」
おどけて見せた俺に姉さんはため息をついた。
「悲しくないの?」
「んー。彼女いなくなってヒマになったから、ちょっと寂しいけど、悲しくて泣いたりはないよ」
「…本当、毎度長続きしないね」
だねー。と俺が言うと、姉さんは複雑な顔を見せた。
「ねぇ、恋って何だと思う?」
俺の質問に姉さんは少し考えて、再びグッとお酒を口に運ぶ。
「前にね、大学の教授が言ってた言葉今でも覚えてる。
恋は自己愛だと。自分がした分だけ相手に大事にされることを求める。もし愛したいなら恋をすることをやめなさいって」
んー。深いなー。と姉さんは熱を帯びた頬に缶を当てて冷ましている。
「もし教授の言葉が本当なら、私はたくさん恋をして、たくさん自分を愛するべきだと思う。それでも自分より愛したい人が見つかったら、自然と恋をすることをやめるのかなって思うんだ~」
「じゃぁ、姉さんは兄さんに恋してないってこと?」
「ううん。してたよ、恋。ずっとね。知ってた?私たち一回別れてるんだよ?」
俺は初めて聞く事実に驚き、いつの時代だろう?と兄さんの昔の様子を思い出していた。
「あの頃はお互いに恋をしていた。そのせいでうまくいかなくてね。でも一回距離を置いたことで変わったのかも」
なんちゃって!とおどけて見せる姉さん。
俺は姉さんが言った教授の言葉を思い出す。
「だから徹もたくさん恋をして、愛を見つけなよ!ね?」
「・・・そうだね」