第56章 【及川 徹】恋は自己愛
「及川くん付き合ってください!」
「いいよー」
「もう別れよう…」
「いいよー」
こんな事を繰り返して何になるのか。
ねぇ。教えてよ。
「徹ー!いるかー!」
「こら!猛!ちゃんと挨拶しなさい!」
玄関からは騒がしい声が聞こえる。
「おかえり、姉さん」
「ただいま、徹」
今日から兄さんが海外出張のため、
姉さんと甥っ子の猛が泊まりに来た。
「徹ー!あそぼー!バレーやろー!」
「ちょっと!呼び捨てやめなさいよね!」
「だって、徹は徹じゃん!」
甥っ子の猛は可愛いけど可愛くない。
「ごめんね?ちょっと付き合ってあげてくれる?」
姉さんが申し訳無さそうに言うから、俺は渋々部屋からバレーボールを持ち出した。
「兄さんはいつ帰ってくるの?」
「来週の水曜日かな?」
今日の夕食はいつもより賑やかだ。
父と母は孫の顔が見れて嬉しそう。
姉さんは父から注がれたお酒を少しずつ飲んで、つまらない話にも笑っていた。
「徹は部活どう?」
「まぁ、忙しいねー」
「さっき徹、彼女にふられたからヒマって言ってたじゃん」
「猛!余計なこと言わない!」
俺と猛の喧嘩にアハハと姉さんは笑う。
それを見て俺も笑う。
猛とお風呂に入って、
俺の方が立派だと自慢して、
猛とゲームして、
俺の方が強いと自慢して、
猛と一緒に布団に入って、
俺の方が…
「おやすみ、猛」
寝かしつけて、自分の部屋へ戻る。