第55章 【烏野高校排球部】三年生の事情
「うぅ~ん、いい香り!」
生徒達の声を聞きながら、私はコーヒーを淹れる。
「さてとっ・・・」
こうやって一日がスタートするのだ。
高校はいい。
元気で可愛いが、ケガが多い小学校。
身体と心の成長が著しく、一番悩みを抱える中学校。
どれも教師として冥利につきるが、
全てを経験した私は改めて思う。高校は良いと。
「ひろか先生、おはよーございます」
今日の一人目の生徒。
東峰旭。3年3組。バレー部所属。
彼は何度か保健室に来たことがあったので、覚えている。
「おはよう、東峰くん。どうしたの?」
「いや…胃が痛くて」
「じゃぁ、そこに座って、そこの紙に書いて待ってて」
私は1枚の紙を彼に手渡す。
来室カードだ。
名前とクラス。来室理由を書く。
「昨日の夜と、今日の朝何食べた~?」
私はポットの前でそう聞く。
問診だ。
あえて背を向けたまま聞く。
正面に座ってだと焦って思い出せない子もいるからだ。
「うぅ~ん、特に食べ物ではなさそうだね。朝練は?どんなメニュー?」
「いつもと一緒です。あっ、書けました」
彼から用紙を受け取って、顔色を見る。
「どこら辺が痛いか触ってみて?」
私は彼が触った辺りに手を近づける。
「ちょっと触るよ?」
私は彼のみぞおちあたりを押した。
「ここ痛い?」
触診だ。
いちお年頃の高校生なので、それなり気を使う。
無駄にいろんな所を触ったりはしない。
私は彼にマグカップを手渡す。
「胃痛に効く、ブレンド茶だよ。…授業行けそう?」
「はい。頑張ります」
高校は義務教育ではないので、基本的には重症じゃない限りは授業に戻さなければいけない。
「じゃぁ、それ飲むまでゆっくりしていって。あっ!みんなにはブレンド茶内緒よ?それ目当てで来る子増えると困るから」
私がそう言うと彼はアハハと笑って、おいしそうにお茶をすすっていた。