第54章 【花巻 貴大】習慣
ガラガラッ
教室の扉を開けると、すでにみんな帰っていた。
私は少し安心して、ごみ箱を元の位置に戻す。
「佐藤!」
声がする方を振り向くと、そこには花巻くんが立っていた。
「ちょっと話があるんだけど」
私はもう逃げ場がなく、素っ気なく、何?と尋ねた。
「あのさ、もしかしてなんだけど…佐藤って俺の事、好き?」
「えっ!?」
「いや、ノートに花巻ひろかって書いてあったの見ちゃって。前にクラスの女子が、好きな人の苗字と自分の名前を書くのは片思いあるあるだって言ってたの聞いてたし…」
どうしよう。何か、何か言い訳を・・・.。
「あれは!!・・・そう、母親の旧姓なの!」
「えっ!?」
花巻くんは目を丸くして、こっちを見ていた。
「昨日、親戚が集まっててさ。旧姓の話になって、それでふと書いてみたって言うか・・・」
私はありもしない嘘を並べた。
「なんだ…。俺さ、最近佐藤と話すようになって、話も合うし、もっと仲良くなりたいって思ったんだ」
花巻くんは照れた顔で頭をかきながらそう言った。
嬉しかった。私ももっと仲良くなりたい。そう思っていたから。
ダメだ。ちゃんと気持ちを伝えなきゃ。
「花巻く・・・」
「だからさ、本当良かったわ!」
「えっ?」
「いや俺さ、他校なんだけど彼女がいるんだ。もし佐藤が俺のこと好きだってなったら、やっぱり仲良くなるのは彼女に悪いからさ。もう佐藤にノート借りたり、休み時間に話しかけたりすんのやめようと思ってたんだよね」
俺の勘違いか、恥ずかしっ!ってニカっと笑った。
「彼女さんいたんだ」
「あぁ、うん。まぁ、ね」
「大丈夫だよ。私花巻くんのこと好きじゃないし」
私は精一杯の笑顔でそう返した。
花巻くんは、そう言われるとちょっと複雑だけどな。っておどけて見せる。
「例えそうでも、彼女さんは他校だしバレないんじゃない?」
「あぁ…いや、俺ただでさえ部活ばっかでかまってやれなくて不安にさせてるから。俺の誠意?っていうかさ」
「・・・そっか。花巻くんって優しいんだね」
んなことねーよって、照れた顔はとっても優しい表情で、本当に彼女さんの事を大切に思っているんだと感じられた。