第54章 【花巻 貴大】習慣
夕食後、机に向かい今日の授業のノートを別のノートに清書する。
これが私の習慣。
なるべくキレイな字で、色遣いもごちゃごちゃしすぎず、時にはイラストを添えて飽きないように。
別にここまでする必要はない。
自分で言うのもなんなんだが、勉強は出来る方。
授業を聞いていれば、そんなに困ることはない。
ただ。
彼のために…ううん、私のために習慣にしているのだ。
あれは3年の春。
学年主任の先生が鬼と呼ばれる石川先生になり、一気に課題が増え始めた。受験生なので、当然と言えば当然なのかもしれないが、2年の時と比べるとかなりの量だった。
「なぁ、課題やってきたか!?」
「あっ!!やっべぇー、忘れてた!!」
私が登校すると、クラスの男子達が騒いでいた。
騒いでいるのは運動部の男子。私はあまり話したりしたことがない人達。
自分の席に座り、私はそんな彼らを眺めていた。
「なぁ、佐藤!課題やった?」
「えっ・・・あっ」
いきなり声をかけてきたのは、その騒いでいたグループの一人。花巻貴大くんだった。
「佐藤も忘れたの?」
「いや…やってきたよ、ちゃんと」
「マジ!?お願い!!写させて??」
彼は両手を合わせて、腰を直角に曲げていた。
背の高い彼の頭が椅子に座っている私の目の前に来る。
「あっ・・・うん、いいよ」
私がノートを手渡すと、彼はマジ感謝!と笑って、私の席でノートを写し始めた。
ピンクがかった髪の毛。
どうやったらこんな色になるんだろう。
どうしてここまで前髪を短く切ってるんだろう。
そんな事を考えながら、彼がノートを写す間ずっと見つめていた。