第50章 【澤村 大地】性癖
「ほら、早く座れ~、授業始めるぞ~」
教師が教室に入ってきて、生徒たちはバタバタと自分の席へ戻って行く。
授業は面倒くさくていやだけど、彼が私の斜め前の席にいる時間は授業中だけだから、そんなに授業を毛嫌いすることは出来ない。
彼は澤村大地。バレー部の主将。
決してイケメンと騒がれるタイプではないが、キリっとした眉と大きな目、短く切った髪、染めることのない黒髪。
私をときめかせる要素は十分にあった。
それだけではない。
身長だって驚くほどの高身長ではない。そこがまたいい。中肉中背万歳だ。肌の色はちょっと色黒。屋外スポーツではないのでもともと黒い方なんだと思う。それが男らしくてとてもいい。
学ランもいいけど、夏はもっといい。
長袖のYシャツを捲し上げて見せる太めの腕がいい。
半袖じゃだめなんだ。長袖には色っぽさがある。
「じゃぁ、教科書の・・・」
教師が教科書のページを指定する。
ペラっと器用に片手で教科書を開くその大きな手。
バレーのためにギリギリまで短くした爪。
頬杖をついた時に、更に浮き上がる血管。
何度見ても飽きない。
私はこの席で本当に幸せ。
だって、彼を少し後ろから見ることが出来るから。
大きな背中。真後ろではなく斜め後ろから見るから胸の厚みまで分かってしまう。
欠伸しているのだって見れるんだ。
真横や真後ろなら絶対に見れなかった。
「澤村~、そんなに眠いなら次読んでみろ」
欠伸がばれて焦って席を立ち、教科書を読む彼。
先生、よくやってくれた。
大好きな彼の腰まで見ることが出来た。良き日だ。
少しだけ下げた腰パン。肩からの逆三角形はどの数式で表現するればいいのだろうか。数学の自習の時間があれば考えてみたいと思う。
「じゃぁ、次佐藤読んでみろ」
授業中に当てられるにはすごく嫌。
でも、その一瞬だけは彼と目が合うから、やっぱり嫌じゃない。彼はご愁傷様と言ったような笑顔を見せる。
教科書を読み終わり、私は席に着く。
彼の方を見るけど、今度は目が合わない。
もう勉強に集中しているようだ。そういう私の期待に応えてくれない所もまたいい。
もう好みの範囲を超えて、性癖と呼んでもいいだろう。