第48章 【月島 蛍】特別
「ツッキーーー!!」
私は廊下で周りから頭一つ飛び出た彼の姿を見て声をかける。彼は振り向いて、すごく嫌な顔をするんだ。
「・・・だから、その呼び方やめてくれない?」
「なんで?ツッキーはツッキーでしょ?」
彼は月島蛍くん。中学から一緒の男の子。
昔から身長が高くて、女の子からの人気は高かった。
「で、何?なんか用?」
彼は冷たく私にそう言う。
「おはよう、ツッキー!」
私は挨拶だけして、彼の元から去った。
私は、彼に恋をしている。中学の時からずっとだ。
初めて彼と話した時は衝撃的だった。
中一の時、同じクラスの彼を街で見かけて声をかけた。
「・・・誰だっけ?」
同じクラスなのに顔すら覚えてもらえていなかった。
「おぉーい、みんなでバレーしようぜ」
中学の時、昼休みにバレーをするのがブームだった。
クラスの男女がグラウンドで円を作って、バレーボールを繋いでいた。
私は基本的に運動は出来る方だったけど、やっぱりバレー部だった彼は飛びぬけて上手だった。
「ツッキーナイス!!」
いつも彼の隣にいた山口くん。
山口くんは彼をツッキーと呼んでいた。
いつも一緒で仲良さそうで羨ましかった。
昼休みも終わり、教室へ戻る途中
私は勇気を振り絞って、もう一度彼に声をかけた。
「ツッ・・・ツッキー!!」
彼は驚いた表情で振り返った。
「・・・何?」
「ツッキーって呼んでもいい?」
「やだ」
彼がムッとした表情を私に向けた。
それから、私はずっと彼をツッキーと呼んでいる。
彼はその度に嫌な顔をする。
それが私の目的だった。
他の子が月島くんって呼ぶから、私は絶対にツッキーと呼ぶことを辞めない。
他の子とは違う“特別”な存在になりたかったから。
いくら嫌な顔をされようと、嫌だという感情を持たれるのが私だけならそれは“特別”なんだ。
「ねぇ、ツッキー!」
「・・・だから、その呼び方やめてくれない?」
彼は不機嫌そうに私を見るけど、そんなのお構いなしだ。
「へへへ。ねぇ、勉強教えて?」
「やだ」
「そんな事言うなら、部活覗きにいって、ツッキー頑張れー!って大きな声で応援しちゃうよ?」
彼はいつものようにムッとして、私を睨む。
「ねぇ、教えてよ」
彼は頭を抱えてため息をついた。