第47章 【黒尾 鉄朗】ヒーロー ~You're my hero~
あれから月日が経って、少しだけ過ごしやすい季節になった。
「サンマの季節だ!」
「黒尾、本当サンマ好きだよな~」
夜久が下駄箱に靴を入れ替えながら、適当に返答をする。
そして、靴を履きかえて、そんなことより!と背筋を伸ばしてもう一度口を開いた。
「進路、どーすんの?」
「あぁ…いちお大学行く予定」
「どこ大?」
夜久は俺に背を見せて先に歩き出した。
「・・・N大」
「N大か…。俺たちギリギリまで部活やってんだから、マジで気合いれねぇーとやべぇぞ?」
夜久が振り返って、呆れ顔で俺を見上げた。
「・・・だな。まぁ、なんとかなる」
今更になって、ちゃんと勉強しておけばよかったと思う。
ひろかが簡単に一緒にN大受けよう!なんて言うから、志望校に入れてみたけど、常にC判定。
とりあえずやるしかねぇーな。俺は自分に活をいれた。
「ねぇ、クロ~?クロにとって私ってどんな存在?」
勉強に飽きてきた頃、ひろかから電話が来た。そして、いきなりそんな質問をぶつけてくるから、俺は話を逸らした。
「そんなことより、文化祭の準備はどうよ?」
「コスプレ喫茶やることになったよ!それでね、大地がね…」
澤村のことを大地と名前呼びになっていたことに動揺した。
「何?澤村の事名前呼びにしたんだ。お前らいつの間にそんな関係に?」
「違うよ!大地はそういうんじゃないもん!」
そういうんじゃない。その言葉に少し安心する。
ただ、今まで殻に閉じこもっていたひろかをいつものひろかに変えてくれたのは確実に澤村なんだって思った。
「・・・そうか。なんか、いつものひろかに戻ったみたいだな。きっと澤村のおかげ…だな」
「…うん。そうかも」
「澤村はお前にとってのヒーローだな」
「…ヒーロー。そっか、大地は私のヒーローか」
澤村にひろかを任せたことは正しかったと言う満足感とヒーローの座を奪われた悲愴感。
どっちが多いかと言われても分からない。
いや、正直に言えば悲愴感の方が勝っていた。
それでも、ひろかが笑っていられるならそれでいい。なんてカッコつけたことを思っていた。