第44章 【澤村 大地】ヒーロー ~スタートライン~
ひろかside
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念願の第一志望の大学に受かって、
私はお父さんの大好きなシチューを作って帰りを待った。
「たっ、ただいま!!ひろか、ど…どうだった!?」
慌てた様子でお父さんは帰ってきた。
そんなお父さんに私はVサインで答えた。
力が抜けたかのように、お父さんは玄関に座り込んだ。
それから、お父さんと一緒に食事を取った。
「…ひろかのシチュー、ママの味そっくりだな」
ママに唯一教えてもらえた料理。
お父さんが大好きな料理だから覚えなさいって。
「日に日にママに似て、ひろかはキレイになっていくな」
「そうかな?」
私はちょっとおどけて見せた。
カタンっ
「そうか・・・ひろかも行くのか・・・」
お父さんがスプーンを手の中から離し、右手で顔を隠した。
ポタっと水滴がシチューに落ちた。
お父さんが泣いている。
ママが死んだ日も見せなかった涙を今流していた。
私は喉の奥がぎゅっとなった。
自分の事しか考えてなかった。
東京の大学に行けば、前みたいな生活に戻れるって。
でも、お父さんとは離れ離れになるんだ。
ママはもういないのに、私はお父さんが一人になることを考えもしなかった。
「お父さん・・・ごめんなさい」
私は家を飛び出した。
涙が止まらなかった。
自分勝手な自分に嫌気がさした。
「誰か…誰か助けて…」