第42章 【澤村 大地】ヒーロー ~夏合宿~
合宿最後の夜、俺は1人で夜風にあたっていた。
「クロ…、私…」
どこからか声が聞こえたのでそっと陰から覗くと、そこには黒尾の胸で泣く佐藤の姿があった。
「ひろか…大丈夫だ。来年にはまた一緒にいられる。だから泣くな…」
号泣する佐藤を黒尾がなだめている。
落ち着いたのか、佐藤は黒尾の元から去って行った。
ガサっ
「澤村!?」
俺は佐藤が去った後で黒尾の前に顔を出した。
黒尾は俺がさっきの会話を聞いていると察して口を開く。
「あぁ…あいつの事頼む。あいつさ、母ちゃん亡くしてんだよ」
「えっ!?」
俺は初めて聞く事実に動揺を隠せなかった。
「あいつさ、昔から母ちゃん入退院繰り返してて、昔はよく一緒にバレーしてたんだけどな。家の事とかやらなきゃいけなくて、バレーから離れたんだ。でも、親父さんがそんなひろかを見て、少しでも好きなバレーに携わらせたいって言って、合宿時期だけこうやって手伝いに来てたんだよ」
黒尾はポケットに手を突っ込んで、少し悲しそうに空を見た。
「あいつ、母ちゃん亡くしてから、自分の大切な人がいなくなる恐怖に駆られるようになってるんだと思う。たった1年離れるだけで俺たちの関係は変わるはずないのに、あいつは不安で不安でたまらないんだ」
「黒尾は、佐藤のことわかってるんだな」
俺は黒尾の横に立って、一緒に空を見た。
「まぁ、ずっと一緒にいたからな。兄妹みたいなもんだ」
「そうか。俺で務まるか?黒尾の代わり…」
「澤村なら大丈夫だ。だからお願いしてる」
黒尾は今までに見せたことない、優しい顔で微笑んでいた。
本人は兄妹みたいなもんだと言っていたけど、佐藤に特別な想いを寄せていることくらい俺だって感じ取れる。
「あぁ。わかった」
俺は黒尾と目を合わせて笑った。
「澤村は…そうだな、ブラックだな。俺はレッド!」
「は?」
黒尾は訳の分からない事を言って、手をヒラヒラと降りながら去って行った。