第40章 【及川 徹】チョコなんてあげないよ
私は一人、校門を出た。
あの後、及川くんはどうしたのだろうか。
でも、人生で初めてバレンタインの行事に参加した達成感で少しふわふわした気持ちになっていた。
「…うっぷ。….あれ?ひろかちゃん?」
誰もいない教室に及川は戻り、まだ残っているチョコレートの前に座った。
「ん?」
そこにはキレイにラッピングされた箱がおいてあった。
「こんなの、あったっけ?」
及川はそのラッピングをキレイに剥がし、箱を開けた。
〝もらったチョコを必ず食べて、一人一人に感謝する誠実さ。
どんなに辛くても、残さず全部食べきる真面目さ。
人が見ていない所で、そういうことが出来る、そんな貴方がずっと好きでした〟
「ブラックコーヒーに、胃薬…?」
及川は始めてもらうプレゼントの内容にお腹を抱えて笑った。
「及川くん、おはよー!」
「あっ!みかちゃん、あのナッツのやつ美味しかったよー!ありがとうー」
「わぁ!食べてくれたんだ!及川くんって優しいー!」
今日も及川くんの周りは騒がしい。
「ひろかちゃん、おはよう!」
及川くんは私の隣に座ってニコニコしていた。
「そういえば、好きな人にチョコあげたの?」
知ってるくせに。
この人のどこが優しいんだろう?
「チョコはあげないよ?来年も再来年も」
及川くんはあははって笑った。
そのあと、すぐに女の子に呼ばれて私の元を去った。
「お前、及川のどこがそんなに好きなんだよ?」
岩泉くんが私の隣に来てそう言った。
「誠実で、真面目で、人に見えない所で頑張るタイプな所。あと優しくなくて、天才じゃなくて、本当はコンプレックスの塊なところ…かな」
そう言うと岩泉くんは大きな声で笑った。
「あいつにはお前みたいな奴が合ってんのかもな!でも、それ本人に言うなよ?付け上がるから!」
岩泉くんはすっごく優しい笑顔でこっちを見た。
いつもはケンカばかりしてるけど、本当に仲がいいんだなぁって思った。
「岩泉くんに愛されてる所も好きかな?」
「はっ!?なんで俺があいつを愛さなきゃなんねーんだよ!ボケ!!」
照れて怒る彼はとても可愛かった。
「ちょっと、岩ちゃん!何ひろかちゃんと楽しそうにしてんのさー!」
「うっせー!クズ川!!」
私達は3人で笑った。
TheEnd