第40章 【及川 徹】チョコなんてあげないよ
2月14日。バレンタインデー。
朝から学校中が賑わっていた。
男子たちも心なしかソワソワしているのが伝わってくる。
「「及川くーん!!!」」
私が学校に着く頃には、及川くんはたくさんの女子に囲まれていた。
両手で抱えきれないほどのチョコレートに困った表情なんて見せずに、ありがとう!って笑っていた。
ガラガラ
放課後、引退したバスケ部の後輩達が友チョコ交換会をやると言うので参加してきた。
あまり甘い物が得意じゃない私は、こっそりと抜け出してブラックコーヒーを買って教室に戻った。
「…及川くん?」
そこにいたのは、大量のチョコを並べて一つ一つ丁寧に包み紙を開けている及川くんだった。
「あっ、ひろかちゃん!どーしたの?こんな遅い時間まで!」
「及川くんだって、何してるの?」
私は彼が座っていた席の隣に座った。
「今日もらったチョコ食べようと思ってー」
「それ全部…?」
「そーだよー」
当たり前!と言わんばかりに即答する彼。
だって、これ何個あると思ってるの?
中には何を考えたのか、大きなチョコレートケーキまである。
でも、彼は嫌な顔もせずに両手を合わせて、いただきます。と言った。
チョコを口に入れて。うん、美味しい!これは…2組のみかちゃんか!一人一人の顔を思い浮かべながら、じっくり、味わっていた。
「全員の顔覚えてるの?」
「んー。たぶん殆どは覚えてるよ!」
また、別のチョコに手をつけ、食べ終わると手を合わせて、ご馳走様と言う。
見ているだけで吐きそうなチョコの山を一つ一つ残さず食べていた。
「全部食べるのは無理なんじゃない?」
「だめだよ、せっかくみんな俺のために作ってくれたのに!」
「じゃぁ、一口だけ食べるとかしなよ」
「そんなの失礼じゃん」
また彼は新しい箱を開けていた。
「2日とか、3日に分けて食べるとか…」
私はどこか意地になっていたのかもしれない。
及川くんは私を見て、にっこり笑った。
「明日からまた大学のバレーチームに混ぜてもらって練習なんだ。迷惑かけられないから」
及川くんの顔が少し力強く感じた。
この人、本当にバレーが好きなんだな。
大きなチョコレートケーキに手をつけ、半分くらいまできた所で、隣から嗚咽が聞こえてきた。
「ごめん、ちょっと、トイレ…」
及川くんは教室を出た。