第34章 【岩泉 一】私を旅館に連れてって
「じゃぁ、部屋割りは配った紙の通りです」
私達3年5組はぶっちぎりの票を獲得して、念願の温泉旅行へ来て居た。
「ひろか〜、先に部屋戻ってるね!」
私は温泉から出て、人よりすこし長めの髪を乾かした。
「ひろか!」
脱衣所を出て部屋に戻る途中にはじめに声をかけられた。そのあと、はじめ達の部屋にお邪魔すると、みんな出払っていて誰もいなかった。
「そのうち帰ってくるだろ」
そう言って、はじめは敷かれた布団の上に座ってテレビを付けた。なんとなく気まずい。はじめも口を開かない。
「…あぁ、なんだ、あれだな。温泉来れてよかったな」
気まずい空気を変えてくれたのははじめだった。
「…あははは!だめだー!はじめのナース姿思い出した!」
私は思い出し笑いが止まらなくなった。
「てめぇ!抹消しろ!今すぐ記憶抹消しろ!!」
はじめはお腹を抱えて丸くなりながら笑う私の頭を布団にグリグリと押し付けた。
「痛い、痛いよー!」
降参の意味も込めて、布団をポンポンと叩いた。
私は起き上がって乱れた髪を整えて、ぐちゃぐちゃ?とはじめを見た。
はじめは私の髪を触って、もう一度整えてくれる。
「はじめ、ありがとう。今日、ここに来れて本当に良かった」
あのはじめがあんな事してまで勝ち取ってくれた温泉旅行。私は改めてお礼を言った。
「最後の思い出とか言うなよ。これからはもっと連れてってやるから」
「・・・うん」
はじめの言葉に私はまた涙を流した。
「ったく、しょーがねーな」
そう言って私を抱きしめて、背中をゆっくりさすってくれた。
「ひろか…」
私がはじめを見上げると、涙を親指で拭ってくれた。
「好きだ…。だから、泣くな」
私はコクリと頷いて目を閉じた。
ガラっ!
物音がして慌てて私達は離れた。
「あれ?岩ちゃん戻ってたの?…って、もしかしてお邪魔でした?」
「及川てめぇ。なんでここにいんだよ!!」
「岩ちゃんひどい!俺がいなかったら、岩ちゃん達は温泉にこれなかったんだからね!」
「うるせぇー!ボゲェ!!」
はじめが投げた枕を交わす様に及川くんは部屋を出て行った。
ったく。とため息をつくはじめに私は笑ってしまう。
「今度はぜってぇ、2人だけで行くぞ」
「・・・うん」
TheEnd
あとがきあり