第30章 【田中 龍之介】嘘つき
「だーかーら!今日、前に言ってた好きな奴に告りに行くのかって聞いてんだよ!」
「あっ…えっと、うん」
「・・・だから俺で練習ってわけかよ」
違う。あれは練習じゃなくて本番なんだよ。
でもそんな事言えない。
「どっ、どうだった?あんな感じでいいの…かな?」
「あぁ…まぁ、いいんじゃねぇーか?頑張れよ」
そんな言葉が欲しかったわけじゃない。
応援なんてしてほしくなかった。
私はそれじゃ、とその場を去った。
「ひろか!!」
龍の声に反応して私は振り返った。
「俺、お前の事好きだ!」
「はっ!?」
「・・・はっ!?」
「「・・・・・・・」」
沈黙の後、龍はハァ…と大きくため息をついた。
「俺の一世一代の告白の返事がはっ!?ってなんだよ」
龍はそう言って私に背を向けた。
「・・・だから、もしダメでも俺みたいにお前の事好きな奴がいるんだから、自信持って行って来い。…じゃーな」
龍が歩き出す。
私は驚きすぎて身体が動かない。
「龍!!龍、待って!!」
龍は立ち止まって振り返った。
「もう一回聞いて?」
私は大きく深呼吸をして、口を開いた。
「私、ずっと好きでした!龍の事が好きでした!あれは練習なんかじゃないの」
「えっ・・・だって、嘘だって言っ…たじゃねぇーか」
「嘘だって言ったことが嘘!私…嘘つきみたい」
龍はゆっくり私の方へ歩いてきた。
「お前が嘘つきってことは、さっきのも嘘か?」
「じゃぁ、大っ嫌い。龍のことずっと大っ嫌いでした」
「ぶはっ!!なんだよそれ、どっちなんだよ」
龍が噴き出して笑った。
つられて私も笑っちゃう。
「あぁ…えーっと。じゃぁ、その…」
龍が少し戸惑いながら、口を開いた。
私はそんな龍を見てもう一度笑った。
「龍…私と付き合わないでください。で合ってる?」
「お前が嘘つきならな」
そう言って龍は私にキスをした。
唇が離れたあとの龍の顔がゆでだこみたいに真っ赤で私は龍のことをもっと愛おしく感じてしまった。
「ねぇ、龍。…もう一回キスしたい?」
「はっ!?したくねぇーよ、バカ!」
「・・・嘘つき」
私は背伸びして、龍にもう一度キスをした。
TheEnd