第26章 【月島 蛍】バカじゃないの?
「・・・蛍…ごめんなさい…」
あれから蛍は一言も話さない。
「蛍…もう私のことフッていいよ。ごめんね、蛍は私の事なんて好きじゃないのに、私の気持ちばっかり押し付けて……」
私は足を止めて、溢れ出す涙を必死で拭いた。
「・・・バカじゃないの?」
「えっ?」
蛍は私のそばに来て、大きな手で私の涙を拭った。
「別に好きじゃないなんて言ってない」
「えっ、でも…海行くのも乗る気じゃなかったし…」
はぁ…と大きくため息をついて蛍は口を開いた。
「なんで、自分の彼女の水着姿をわざわざ他の男に見せなきゃいけないのか、理解不能…」
“自分の彼女”その言葉についつい口元が緩みそうになったけど、ぐっと我慢した。
「でも、いつも手繋いだりしてくれないし…」
「手を繋げなくてムキになってるを見るのが好きだから」
予想外の返答に私はついついムキになる。
「だって!今まで好きって言われたことない…」
「・・・好きじゃなかったら付き合わない…」
蛍はそう言って、そっぽを向いた。
「じゃぁ…私のことす…好き?」
「・・・バカじゃないの」
そう言って蛍は歩き始めてしまった。
そして、蛍は前を向いたまま後ろへ手を差し出してきた。
私は嬉しくなって、蛍の差し出した手をぎゅっと握った。
「やっぱり、蛍が好き!」
私がそう言って見上げると、蛍はちょっと怒った顔でこっちを見る。
「そう言えばさ…君、あの男に簡単に付いて行ったよね?君こそ、僕のこと本当に好きなわけ?僕が長身だから好きなわけ?」
「ちっ!違っ!!」
「ふぅ~ん。じゃぁ、どこが好きなわけ?」
蛍がちょっと意地悪そうに私を見た。
「もちろん外見も好きだけど…外見だけじゃないもん…蛍は意地悪だけど、本当は優しいし。いつも冷静で、さっきだってカッコよく助けてくれたもん…」
「ふぅ~ん」
ちゃんと伝えたのに相変わらずの反応にちょっぴり落ち込む。
「・・・バカじゃないの?」
私が蛍を見上げると、蛍の顔が真っ赤になっていた。
「・・・蛍?えっ!?」
「本当・・・バカじゃないの?」
「・・・ふふ。うん、バカかも」
だって、恋人にバカって言われるのがこんなに嬉しく感じるなんて、私って本当…バカかも。
TheEnd