第25章 【菅原 孝支】ファンファーレ
「さっみー」
高校生活最後の冬。
部活引退後、無事センター試験も終わり、
卒業までの高校生活を送っていた。
「ひろか~、そろそろ帰るべ~?」
彼女は焦って楽器を片付け、俺の元へ駆け寄った。
「ごめん、時間忘れてた」
音大志望の彼女は試験が他の大学組より遅くなる。
「いいよ。今度は俺がひろかを応援する番だべ?」
俺たちは校内を出た。
「寒いなー」
外は雪がちらちらと降っていた。
「孝支、はい!」
ひろかは以前俺があげた手袋を手渡してきた。
「いいよ、俺は。
ひろかはこれから試験なんだから風邪ひかないように・・・」
俺の話を聞かずにひろかは左手に手袋をはめてくる。
そして、もう片方を自分の右手にはめていた。
「左手は、孝支が暖めてね?」
俺はひろかの左手を握った。
それから、無事ひろかの合格が決まった。
東京の音楽大学だ。
「寒いな」
「うん」
「東京は寒いのかな」
「・・・」
「応援してるから」
「・・・」
「応援・・・して・・・る」
ひろかがポロポロ涙を流すから、
俺も涙を堪えることが出来ない。
「なぁ、離れても大丈夫だよな、俺ら」
「・・・うっ・・・うっ」
俺たちは力いっぱい抱きしめ合った。