第25章 【菅原 孝支】ファンファーレ
「さっみー」
朝練の時間より、少し早く着いてしまった。
大地がまだ来ていないので部室にも入れない。
~♪
どこからか、楽器の音色が聞こえてくる。
俺は気になって音がする方へ進んでいった。
ガチャ。
たどり着いたのは屋上だった。
まだ寒い4月。そこにいたのはトランペットを持った女の子だった。
制服にマフラーを巻いたまま
楽器を吹く姿は威厳に満ちていた。
キィ…
俺が屋上の扉を開くと
錆びついたドアの音が鳴った。
その音に反応して、彼女が振り返った。
「・・・誰!?」
「ごっ、ごめん!」
俺が彼女に顔を見せると、
彼女はビックリした~と笑って見せた。
さっきまでの威厳に満ちた彼女とは全然違う
普通の女子高生の顔だった。
「なんだ…菅原かぁ…」
彼女は持っていた楽器の口の部分のパーツを外して
その部分だけでブーと音を出していた。
「驚かせてごめん」
「ううん!教頭かと思ってビックリした。
ここで練習してるのは秘密でお願いします」
そう言って、彼女は舌をぺロっと出した。
本当は立ち入り禁止の屋上。
彼女は毎朝、一人屋上で練習しているという。
「ここだと、自分の音だけを聴けるんだ」
佐藤は楽器を構え、再び演奏を始めた。
~♪
そんな佐藤を俺は後ろから見ていた。
屋上からの景色は、自然が広がっていて、
朝日が眩しかった。そんな中で楽器を吹く彼女の姿に
俺は引き込まれてしまったんだ。
「ダメだ~!寒くて指が動かない…」
佐藤は楽器を置いて
両手を口元で温めていた。
「佐藤、これ貸してやるよ」
俺は自分がしていた手袋を佐藤に渡して、そろそろ大地が来る頃だと思い、部室へ向かった。