第4章 【岩泉一】空回りの恋
「ひろかー!これ頼む!」
俺の声を聞いて、駆け寄ってきた女。
それが佐藤ひろか。
中学では女子バレー部に所属していたが、怪我もあり、高校では男子バレー部のマネージャーをしている。
「岩ちゃーん!ねぇ!ねぇ!岩ちゃんってばー!」
向こうで俺をバカみたいに呼んでいるのが、及川徹。
「ひろかー!岩ちゃんがシカトするー」
よしよしして?とひろかに抱きつく及川を俺はいつものように殴り飛ばす。
「クズ川、ボゲェッ!」
「痛いよ、岩ちゃん…」
部活が終わり、着替えを終わらせ、
他の部員が帰るのを見送る。
「「おつかれっしたー」」
後輩達が帰った少し後に、
たたたっと足音が聞こえてくる。
「お待たせ!はじめちゃ…、岩泉先輩!」
女子マネージャーの更衣室がないため、
ひろかはいつも校内のトイレで着替えをしている。
息をあげて、駆け寄る彼女に
少し口元が緩んでしまう。
「部活以外では別に呼び方戻してもいいぞ」
へへ。と照れ笑いするひろか。
「徹ちゃんは?」
「知らねー」
幸せな時間は一瞬で、
ひろかは一番聞きたくない名前をあげた。
俺と及川とひろかはいわゆる幼馴染ってやつで、
昔からずっと一緒だった。
一つ年下のひろかは、昔から俺たちの可愛い妹みたいな存在だった。
「ひろかは本当に可愛いなぁー」
及川はそう言っていつも
ひろかの頭を撫でる。
照れ笑いしながら、嬉しそうに及川を見上げるひろか。
俺は及川のこういうチャラチャラした感じが大っ嫌いだ。
俺には絶対に真似できないから。