第1章 帰る場所は
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『…抱えんのが、辛れぇんだ…。』
万事屋に帰った麗の脳裏には、何年も前に聞かされた銀時の言葉が何度も繰り返される。
かつて、まだ攘夷戦争が終戦に近づいていた頃、そして慕っていた松陽先生の首が皆の元に帰った時の事だった。それまで修羅の如く戦場を駆け抜けていた「白夜叉」こと坂田銀時は、何もかもを失ったような顔をしていた。取り戻したかった師も取り戻せず、護りたかった数多くの戦友も護りきれなかった。決してやり直す事の出来ない二つの失態である。その事実が銀時の心を打ち砕く。もう刀を握る力すら、無い気がした。
時期に終戦を迎えたとの伝令が届き、彼は何もかもを捨てて戦場を去る。それは幼なじみであり、最愛の恋人でもあった麗も含めての「全て」である。銀時は今まで己を支えて来た麗さえも、背負う事に怯えていたのだ。そして冒頭の言葉を残し、銀時は麗の前から姿を消した。引き止める間すら、なかった。
それから長い年月が過ぎ、江戸で暮らし始めた麗は銀時と再会する。そこで会った銀時は眩しかった。新八、神楽、定晴といった面々に囲まれ、彼は強く生きている。もう他人を抱える事に恐怖を感じていないようだった。それが何よりも嬉しい。最初は戸惑いはしたものの、銀時ともまた打ち解けられ、そして再び告白された。戻れるとは思わなかった関係に戻れて、麗が涙したのは未だ記憶に新しい。離れていた時間を埋め合わせるかのように、毎日が甘く充実していた。