第1章 帰る場所は
けれど、消えない傷もあった。
銀時は時に姿を消す。それは厄介な依頼を引き受けた時だったり、何らかの事件に巻き込まれる時だ。やっと帰って来たと思えば、体が怪我をしていたりと心配が耐えない。ボロボロな銀時を見るたびに、寿命が短くなる気がする。されど帰って来た姿を見れば、安心も出来た。
だが麗の真の不安はまた別の所にあった。それは、また彼に捨てられたのだろうか、という言い知れぬ恐怖を感じる事だ。銀時に愛されている自信はある。再び恋人となり、彼は麗を二度と不安にさせまいと必死に愛情表現をしている。些細なときでも手をつなぎ、町中を歩く時も、ふとした瞬間に額や頬にキスを落としてくれる。借りていた長屋が火事で全焼した時も、彼は真っ先に麗の安否を気にして、一緒に万事屋で暮らす事を薦めてくれた。これほどまでに惜しまず与えられる愛を、どう疑えと言うのだろうか。
けれど、だからこそ麗は申し訳なく思っていた。いくら時が過ぎようとも、いくら銀時が愛情を注いでくれようとも、銀時の姿が消えれば不安は何度でも蘇った。彼を信じているのに、信じている筈なのに、胸は勝手に苦しみだす。今度こそは戻ってこないのかもしれない。今度こそは捨てられるかもしれない。思考が勝手に最悪な方を想像してしまう。自分でも馬鹿な事だと分かっている。だけど猿飛あやめや他の者のように、心穏やかに銀時の帰りを待てずにいた。抱えるのが辛い、昔聞いたその一言で受けた傷は、思ったよりも深かったようだ。どうすれば癒えるのかも分からない。…本当に、これでは恋人として失格だ。
銀時の社長椅子の上で膝を抱えたまま、麗は涙を流し続けた。