第1章 帰る場所は
「けど、私にそんな事を尋ねるなんてね。貴方、銀さんの事そんなに信用してないんじゃない?たかが一日や二日も待てないだなんて。銀さんなら、それこそ何があっても平気よ。むしろいつもよりキツい放置プレイで興奮するじゃない!…小さなこと気にして、それで恋人を名乗れるなんて高が知れてるわね。まあ、すぐにその座もこの私が奪うから構わないけど?せいぜい今の内に堪能してる事ね。」
どうやらあやめを頼りたくない心理は見抜かれていたらしい。切羽詰まっている事がバレバレである。そんなあやめに続けられた言葉が、麗の胸に容赦なく突き刺さった。とても痛くて苦しい。心ない事を言われたからではない。むしろ逆である。事実だからこそ、あやめの言葉に真理が含まれていたからこそ、麗の心は痛くて痛くて仕方が無かったのだ。
言いたい事は言ったとでもいうように、あやめは忍らしくその場から風と共に姿を消した。彼女の足下があった地面には、風で落ちた木の葉が数枚あるだけだった。残された麗は、もう居ないくの一に向かって静かに呟く。
「知ってますよ、猿飛さん。恋人を名乗る資格なんて、何処にも、ありませんよね。私は臆病者なんです。貴女のように、純粋でもなければ、強くもない。」
溜まって来た涙が溢れる前に、麗はその場を去った。