第3章 帰京
「潮里が僕とのことに消極的なのはこの話が家同士で決められたものだからだろう?だからそうではないということを示したかったんだよ。潮里にも母にも、ね」
驚いた。まさか私の気持ちを考えてのことだったとは。確かに家同士の決め事に当人の意思は尊重されないのは不満ではある。だかこの件に関してはそれだけではないことに「彼」は気づいてないようだ。
「お心遣いありがとうございます」
それだけ言って会話を終わらせようと目を伏せる。だが「彼」はそれを許さなかった。
「潮里は一体何を探しているんだ?それとも誰を、かな」
いきなり投下された質問の意味がわからず困惑する私の顎先へ手を伸ばし、「彼」は私の顔を固定するように自分の方へむけた。
「ほら、その目だ。潮里は僕といる時はいつも誰かを探しているような目をしている」
目をそらすことも許されない。正面から見据えられて硬直する。私が、誰かを探している…?一体誰を探していると言うのか。
「私は誰も探してはいませんが」
「いや、探しているよ。今も、だ」
「彼」は時々良く分からないことを言い出すが、今回のものはその中でも1.2を争うほど訳がわからない。私が誰を探す必要があるというのか。仮にあったとしても、それは今すべきことではないことぐらいは承知している。ますます困惑に度合いを深める私に、「彼」は少しイラつきながら低くつぶやいた。