第1章 温泉の街で出会った少女
おじさんの慌てっぷりに、少女はクスクスと可笑しそうに笑った。
「大丈夫よ。これでも、鍛えてるんだから」
「大丈夫って言われても、心配なんだよー! この温泉街のアイドルを轢きそうになったなんて、シャレにもなんねェ!」
「アイドルなんて……」
少女は困ったように、眉根を下げて口元に手を当てて笑った。
「本当に大丈夫か? どっか怪我してたら言ってくれ。慰謝料とか治療費はちゃんと払うから」
「大丈夫よ。この子が助けてくれたもん」
香織はそう言って、後ろで立ち上がった吹雪を振り向いた。運転手もそちらに目線を向ける。
「そうか……兄ちゃん、本当にありがとよ。本当に助かった……俺ァ、この子が死んだらと思うと……」
吹雪の手を取って、強く握り締めながら泣き始めるおじさんを宥めながら、香織は吹雪と視線を合わせた。
「本当にありがとう。助かったわ。あなたがいなかったら、仕事どころの騒ぎじゃなかったもの」
「仕事?」
「そう……あ……」
少女は思い出したように声を出して、口を押さえた。大事な用事の途中だったのに、思わぬハプニングに巻き込まれてしまった。
「香織ちゃん……あんた、まさかとは思うけど……お遣いの途中だったとか……」