第1章 温泉の街で出会った少女
「忘れてたー!」
おじさんの話の途中でそう叫び、香織は血相を変えて一目散にどこかへと走り出してしまった。
「あーあ」
おじさんは愉快そうに笑って、吹雪にもう一度、礼を言って頭を下げてからトラックに乗って立ち去った。
「……なんか、慌ただしい子だったな」
一連の様子を側から見ていた円堂が吹雪に話し掛ける。
「そうだね。でも……」
吹雪は少女が走り去って行った方を見て、垂れた瞳を眩しそうに少し細めた。
「……また、すぐに会えるような気がする」
彼の髪を夕方の温泉街に吹く風がふわりと撫でる。ーーこれが運命の出会いを示しているかのように……。
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