第1章 温泉の街で出会った少女
「ん? なァ、吹雪、あれ……」
2人がぶらぶらと歩いていると、反対側の歩道を物凄い勢いで走っている少女が目に入ってきた。なんとなく気になって、彼女の方を向く。
「あの子……何であんなに……って!」
円堂は吹雪に話す途中で、いきなり大声を上げた。横道から出て来た一台のトラックが彼女とぶつかりそうになったのだ。
「……危ない!」
「……え?」
円堂は大声で彼女を呼び止めたが、走っていた少女ーー香織はその声に反応はしたものの、勢いのあまり急には止まれそうもない。それに、円堂の方を向いてしまってトラックが横から近付いていることに気付いていない。
「え!?」
香織が走っている横から、勢いよくトラックが走行して来る。トラックの運転手も彼女の存在に気付いたばかりなのか、必死にブレーキを踏んでいるが、すぐには止まれそうもない。
「う、嘘!?」
トラックはもうすぐ目の前までやって来ている。避けることは不可能だ。香織は目を瞑って、衝撃に対して身構えた。
(え……)
衝撃が走ると思った瞬間、誰かが香織を抱き締めて、そのまま車が走らない場所へと一緒に転がった。
それと同時に、トラックは彼女がいた場所から少し進んだ所で停止した。