第2章 *擦れ違い[鬼灯]
彼が帰り際にわたしの横を通ったとき。
鬼灯さんはまっすぐ前を向いたまま、一度も私を振り返らなかった。
それでも、初めて私は、いつも嫌いだと思っていた彼の涼しげな横顔を
美しいと思った。
そして同時に、それが遅すぎたことを悟った。
何故だろう。
明日になればまた地獄で顔を会わせるのに。
辛うじて“上司と部下”としての糸が繋がっているはずなのに。
今になってようやく私は鬼灯さんの言わんとしていたことを理解し、
私自身を理解したのだ。
くっきりと目に焼き付いた鬼灯の紋章が、ぼやけ始めた。
溶けかけたアイスティーをかき混ぜながら、
私はテーブルにひとつ、シミを作った。
溢れ出たものさえ擦れ違った。
彼の想いも、彼女の想いも___