第1章 6粒の幸せ〜仁王 雅治編〜
6つしか入ってないそれはどこか高価なもので、食べている人を見ると大人に見えるのだ。
「あ、仁王何食ってんの?」
「…んあ?」
昼休み。
屋上で佇んでいた俺を見つけたブン太が開口一番に手元にあるアイスを指差して言った。
「これか?…なんじゃろなぁ…?」
わざと分からないふりをしてまた一粒口に入れた俺に、目ざといブン太が駆け寄ってきた。
「俺にも一粒くれ!」
あ、と口を開けたブン太にやれやれと頭を振ってその口内にお目当てのものを入れてやる。
本当に俺は優しい。
自分でそう思うくらいなのだから。
「うめーっ!さんきゅーな仁王!」
「…俺の幸せが一粒逃げたぜよ」
「幸せ…?」
もぐもぐと口を動かしていたブン太だったが、やがて口の中で溶けて無くなったそれの代わりに菓子パンを食べながら首を傾げた。