第10章 ターゲット(イルミ/吸血鬼パロ)
その日は月が高くに登っている秋の夜で、少し開けていた窓から庭の花の甘い香りが漂っていた。
誰もが寝静まっているであろう真夜中、私はふと部屋に誰かの気配を感じて目を覚ました。
「ん、……」
重い瞼を開くと、暗いはずの部屋は月明かりのおかげか少しだけ明るく回りをよく見渡す事が出来た。
大きなバルコニーのある窓のすぐそばに、見たことのない誰かの影がひとつ。
長い髪とスラリとした体躯から一瞬女性かと思ったけど、その高い身長から男性かなと思った。
月明かりを逆光に背負っていて、顔はまではわからなかった。
顔を見たいような、見てはいけないようなそんな不思議な感覚を覚えて私はぼうっとその影を見つめていた。
「…だれ?」
私は小さな声で言った。
それに応えるようにその人が少し身体をずらすと、月明かりがその人の顔にあたり 顔を確認することが出来た。
やっぱり私の知らない人。
陶器のような白い肌に、開け放たれた窓から入る風になびく漆黒の長い髪、感情の籠らない大きな黒い瞳。
あまりに綺麗だったからやっぱり女性かと思った程、でも不思議と私の心は男性だと確信していた。
そしてその人は私に言った。
「見つけた、お前は俺のターゲット」
「…ターゲットって?」
ターゲットっていう物騒な言葉に私は反射的に言葉を返した。
私はこれでもそれなり財閥の令嬢だから、誰かに狙われることもあるのかなぁなんて呑気に考えてた。
目の前のその人はゆっくりと私が寝てるベッドまで足を進めてきた。
「ターゲットって何?私を誘拐するの?お金が欲しいの?」
あの時の私はこれからどんな目に合うかもわからずに、そんな言葉を返したと思う。
その人は私を見下ろしながら、小さいけれどとても響く低い声で言った。
「俺が欲しいのはお前の血だよ、リネル」
血が欲しいと言われた事よりも、私の名前を知っていた事に驚いた。
やっぱりあの時の私はまだどこか呑気に考えていたんだと思う。
「どうして私の名前を知ってるの?」
「ターゲットの事は徹底的に調べ尽くす、当然でしょ?」
表情を変えないままにその人は言った。
私はその人にもう一度質問をした。