第4章 欲情(イルミ/メイド)
イルミは今日の仕事の際、珍しく怪我をした。
普段念を込めた針を飛び道具として使うので直接傷を負うことは珍しいのだが、今日は相手が能力者であった事もあり脇腹に傷をもらっていた。
これから死ぬ人間に傷つけられた事や、生ぬるい血の匂いや感触に苛立ちを感じつつもイルミは帰路へついた。
「おかえりなさいませ」
いつものように帰宅を出迎えるゴトーがイルミの様子に少し声を高めた。
「お怪我をされているのですか、至急手当を」
「大げさ、たいしたことない」
「しかし…」
「うるさい」
歩みを止めることなくそう言い放つと、まっすぐに自分の部屋へ戻り ソファに腰を下ろした。
ふぅと息をつきしばらく時間が経つと傷がズキズキと疼き出す。
仕事中は集中しているせいもあってかほんんど痛みを感じなかったが、今頃になって傷み出す傷にイラついた声を出した。
「ほんと最悪」
今だ乾かない血に溜息をつき、部屋から執事室へ一本の電話をかけた。
「血が止まらない、誰がよこして」
「はい、かしこまりまし」
返事を聞き終えることもなく電話を置くと、再びソファに深く腰を下ろした。
コンコン
「失礼します」
程なくして普段あまり聞いたことのない高めの声がノックの音と共に聞こえた。
イルミは目線だけで扉の方を見ると、初めて見る1人のメイドが入ってくる。
「ゴトーは?」
「只今別件で出払っております、人手不足で私で申し訳ございません。」
「お前見ない顔だね、新入り?」
「はい、リネルと申します。よろしくお願いします」
薬箱を手に深々頭を下げてリネルと名乗ったメイドは部屋へ入って来た。
イルミはリネルに鋭い目線を向け言った。
「新人よこすってどういう事?お前手当出来るの?跡残ったりしたらやなんだけど」
「あ、それは大丈夫です。私ここで働く前はハンター協会専属の看護師をしていましたので手当は出来ますので」
「あっそ、お前の身の上に興味ないし早くして」
「あ、はい、失礼しました」