第16章 仮宿(ヒソカ/セフレ)
「機嫌なおせよ♣︎」
「別に怒ってはいない、呆れてるだけ」
「……イクの早かったから?」
「違う」
しんと静かなバスルーム。
身体を揺らすと時折水面が静かな水音をたてる。
あれから リネルはヒソカと向かい合い、浴槽に浸かっていた。
血を洗えと言っても聞かず、やめろと言っても行為を強引に進め、挙げ句の果てには平気で身体の中に精液を吐き出す。
立ち込める湯気の中、伺うようにヒソカを見れば何事もなかったかのように 至極満悦そうな笑みをその端正な顔に浮かべている。
懐いているようで懐かない、決して本心は見せない。結局の所 都合よく利用されているのは自分、わかってはいるが 暇つぶしに利用しているのは自分の方だと言い聞かせる、そんな自分に呆れていた。リネルは大きな溜息をついた。
ヒソカは洗ったばかりの濡れた髪を無造作にかきあげ リネルの腕を引く。そこまで広さがあるわけでもない浴槽ではすぐに互いの身体が密着する。
「今日はリネルに会えてよかったナ♦︎」
「都合がいいからでしょ?」
「頭悪い女みたいな事言うなよ♠︎」
「………」
ヒソカは何ともズルい事を言うと思う。この関係に愛を求めるつもりはないし、関係を断つ気も特にない。それなら大人しく聞き分けるしかない。
黙り込むリネルをあやすように ヒソカは額を合わせた。
「たまにね、どうしても会いたくなるんだよ♦︎」
「わかった、もういいよ。別にそれらしい言い方しなくても」
「本心なんだけどなぁ……♠︎」
口先で不敵に笑った後、ヒソカはリネルの顔を両手で包み リネルに唇を重ねた。