第5章 喧嘩
「潤くんはいつもああなんだ。
自分が悪者になろうとする
だから潤くんは他の奴より傷が多い
なのにその傷を教えてくれないんです。」
「今日も?」
こくん、と頷く。
「俺らのお父さん、失踪したんですよ」
失踪…?
知らなかった。
離婚か何かかと思ってた
「…母さんも俺らも寝てるうちに
電話もメールも届かない、音信不通なんだ
何が嫌だったかなんて、今さらながら
母さんは考えてるけど、そうじゃないと思うんだ」
「本当に大事な理由、って
なんで2年も経ったのに、
家に帰んないのかってことなんだ」
彼が言いたいこと、
たぶんだけど、
寂しいってこと。
それから、
お母さんが泣いてるよってこと。
長期間に渡って失踪するなんて、
家族を捨てたも同然って、
彼にだって分かってるはずだもん
「それをアイツらは潤くんに言った。
俺にも、兄ちゃん達にもだ」
『お前ら、本当は嫌われてんじゃねーの』
『出張とか嘘でさ、そのへんで遊んでんだよ』
『父親もさ、子どもと母親が邪魔だったんだよ〜』
『ちげぇよ!!』
『何がちげぇんだよ』
『2年もいねーんだろ?
今さら戻ってこねぇよ、ごめんよってさ』
『ははははっ、笑える〜っ』
ポロ、
なんで。
こんなにも悲しい事なのに、
潤くんは泣かなかったんだ?
強がってた?
違う、
和也くんが傷ついて泣いてたから
守っていたんだ。
「…なんであんたが泣くわけ。
関係ない話じゃないすか?」
その冷めた性格も、
今の環境と比例してるのかな
「…でも、ありがと……、
おれっ…、わかってんだけどさっ…」
悔しんだ。
潤くんは泣かなくて、
怒鳴って代わりに殴ってくれたんだ
悪者になった
なのに俺は被害者ぶって、
くすんくすん泣いてるのが、
たまらなく
悔しんだよ…。