第21章 色のない世界(girl's side)
あの日、ハンドボール部のエースであり、将来を嘱望された一人の女子生徒が、職員室で一つの事実を口にした。
「ユカリとつきあっているのは、イトウ先生です。銀八は、関係ありません!」
その直前に、銀の髪をした彼が私に伝えていてくれたから、その事実自体に衝撃を受けることはなかった。
いや、彼が私に伝えていなかったとしても、私が衝撃を受けたかどうか――。
うすうすそうなのではないか、そう感じていたことが裏付けられた、そんな程度だっただろう。
ただ、私がその女子生徒の言葉を聞いて思ったのは、
(この生徒は、彼のことを好きなのだなあ)
ということだった。
端正な顔立ちをしながら男嫌いで有名なその生徒が、友人の秘密よりも彼の無実を認めてほしくて出した言葉。
しばらく前から、二人が屋上に連れ立っていく姿を目にしていた。
彼は気づいていないようだったが、女子生徒が彼を見つめる目は、恋する女のそれに間違いなかった。
恋心。
浮き立つようなその気持ちは、何年も前に失くしてしまった。
この指輪をくれた人の命とともに。