第20章 恋心捜索願(銀八 side)
数日後。
「銀八、ちょっとつきあってくれるか」
帰りのHRが終わったあと、月詠が俺のクラスにやってきた。
「駅前のマックまで一緒に来てほしい」
「そりゃかまわないけど、何の用事だ」
すると月詠は俺に顔を近づけて小声で言った。
「……ユカリがお前に会って謝りたいと言っている」
「……」
謝るだなんて。
全てのきっかけは、俺が作ったというのに。
待ち合わせ場所で顔を合わせたシノハラは私服姿で、つい先日まで校舎の屋上で一緒に昼飯を食べていたシノハラとは別人のように見えた。
「ごめんなさい。わざわざ」
「いや……俺の方こそ、お前に謝らなくちゃならねえよな。俺があんなヘマさえしなければ……」
「ううん、それはいいの。どのみち、先生との関係も、うまくいくはずなんてなかったんだもん」
その言葉は俺の心を貫いた。
俺が愛里先生にやっていることも、同じようなものだからだ。
「イトウ先生、私の身体の心配なんか一つもしてくれなかった。『お前、俺とのこと坂田に話したのか?まさか坂田ともデキてるのか?』なんて言って。頭にきたから思わずそこらへんにあるもの全部投げつけてやった。点滴の器具ごと倒しちゃったから大騒ぎになったけどね」
「……」
「LINEの会話とか、全部流してやるって言ったら、かなり焦ってたわね」
「……おいおい」
「でも、それで冷めたの。ああ、この人は、私のことなんてどうでもいいんだなって」
「……」
「っていうか、もう恋愛だったのかさえわかんないや。先生に執着してただけなのかも」
「……」
「だから、銀ちゃんが気に病む必要ないの。私は……別の学校に転入できそうだし。もっといい男ちゃんと見つけるから」
「そうか」
「銀ちゃんも……、不倫とか、やめた方がいいと思う。私みたいな騒動を引き起こさないうちに」
「……そうだな」
俺は苦笑しながら答えた。
確かに俺と先生は、不倫じゃないけど、許された関係ではない。
やめた方がいいとわかっているのに、先生のことが好きで好きでたまらないのは、どうしてなんだろう。
それともこの気持ちも、シノハラが言うように、単なる執着なんだろうか。
わからない。
自分の心なのに、どうなってるのか、捜索願が必要なくらいだ。