第18章 踏んだり蹴ったり殴られたり(銀八 side)
「松平先生!私が銀ちゃんに頼んだんです!妊娠検査薬を買ってきてほしいって!」
おいおい、その言い方じゃ誤解招くって。
「何だと?」
案の定、とっつぁんは俺のことをギロリと眺めた。
ああ、完全に俺とシノハラがデキてると思ってる目だなこりゃ。
「だから、私が全部悪いんです。私が……」
そこまでシノハラが言った時だった。
「ユカリ、それ!」
月詠が後ろから叫んだ。
俺は月詠の視線を追い、彼女の腿を伝う赤い線に目を奪われた。
「え?」
シノハラは自分の足に目をやり、そしてそのまま後ろに倒れた。
「ユカリ!!」
月詠が支えていなければ、そのまままともに後頭部を打っていたかもしれない。
「おい、どうしたシノハラ!」
目の前で女子生徒が倒れて動揺したらしく、とっつぁんは彼女の身体を揺さぶろうとした。
「先生!」
俺はとっつぁんの腕を後ろから抑えた。
「先生、動かしちゃだめです!シノハラは、シノハラは……、妊娠しているかもしれないんです」
「何だとォォォォォォォォ!?」
とっつぁんが俺の胸ぐらをつかんだ。
「坂田、歯ァ食いしばれ!!」
俺がシノハラをのぞき込もうとしたのと、とっつぁんの鉄拳制裁がヒットしたのは同時で、俺の顔はまともに拳を受けてしまった。
俺とっさに目を閉じたが、一瞬、
ああ、あの時の晋助の左目は、こんな風な動きを見ていたのかもしれねえな、
と思った。
「おい、担任のイトウ先生を呼べ!保健室に内線だ!」
とっつぁんはバタバタと面談室を出て行く。
遅れてやってきた痛みに崩れ落ちそうになりながらも、俺はぼんやり思っていた。
完全に俺が疑われてるよな。
確かに、品行方正とはいいがたい俺の普段の言動だけど。
俺、シノハラに指一本触れてねえっての。
触れるつもりもねえっての。
愛里先生、先生は、俺のこと、信じてくれますか?