第2章 いせかいにようこそ
けれども、世界というのはわたしに都合良くできているみたいだ。
ルルカと二人で話に花を咲かせていると後ろから足音が近づいてきた。
「なんだ、先客が居たのか」
わたしの後ろから伸びてきた白い手がルルカの頭を撫でる。
優しい手つき。
顔を上げて仰ぎ見ればそこには、一人のブロンド。
瞬きの度揺れる長いまつげ、透き通る様なアイスブルーとマリンブルーのオッドアイ、艶やかで絹糸の様な長髪。
作り物めいた端正な顔の女性だ。
まるで精巧な絵画や彫像でも見ているような気分になる。
「リモーネだ!何とかをすれば影ってやつだねー!」
この人が、先程まで話題に出ていた人物だったのか。
「噂をすれば影、だろう?というか私の噂なんてしていたのか」
少し困ったような笑顔を見せるリモーネ。
彼女はその顔のままわたしの方を向き、隣良いか?と訊いてきた。
笑顔で促すと運河の縁に腰を落ち着ける。
「自己紹介がまだだったかな。私はリモーネ。北の方の森で万萬(よろず)屋をしている。君は?」
自分から先に自己紹介をするなんて、何だか紳士的な人だ。
いや女性だけど。
『わたしはサキです。えっと……』
困ったな、何を言えばいいのだろう。
名前以外は何も、自分の年齢すらわからないのだからどうしようもない。
『なんか記憶喪失みたいで、思い出せるのが名前だけなんです。気づいたらこの街に立っていて、よくわからないまま歩いていたらルルカちゃんに声を掛けられて今に至ります。』
結局ありのままを話すことにした。私の半生約一時間、説明するのに約二十秒。
なんて薄い人生、悲しくもならない。
リモーネはというと、特に表情を変えるわけでもなく一言、そうかと呟く。
何かを思案しているのか顎に手を当て、少しだけ首を傾げた。
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