第2章 いせかいにようこそ
リモーネは平気そうな顔をして持っていた枕くらいの大きさの麻袋。
それには丈夫そうな皮の紐が二本縫いつけられていてとても持ち易い。
『うぬぬぬっ……ぅああっ……』
持ち上げてみたはいいが、肩に持っていくことができない。
仕方なく一度下ろし、最初から肩に担いだ状態で立ち上がることにした。
『よいしょっと……あわわっ……』
これは気を抜くと多分転ける。
落として傷などを付けては大変だ、と慎重にリモーネを追う。
彼女は、よたよたと揺れながら歩くわたしを少し離れたところから心配そうに見ていた。
やがて、大きな看板の掲げられた建物の前でリモーネが立ち止まる。
どうやら漸く宿に到着したらしい。
「サキ、私は荷物を部屋に運ぶから代わりに宿の手続きをしておいてくれるか?」
リモーネに問われ、わたしが運ぼうかと言いかけるも思いとどまる。
無理だ、一番小さな物でさえひとつ運ぶのにも多大な体力を消費したのだから。
『わかりました!いってきます!』
手続きといっても、宿泊日数と食事の有無を帳簿に書き込むだけの簡単なものらしい。
それならできるだろうと安請け合いしたのが悪かった。
恰幅の良いおばさんに渡されたノートを見て、わたしは後悔することとなる。
「あいよ、サキちゃんね!じゃあ帳簿に書き込んでおいてくれるかい?解らないことは遠慮なく訊いとくれよ!」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、笑顔で羽ペンを渡すおばちゃん、もとい宿の女将さんに言う。
『申し訳ありません、文字が読めないので読み上げて貰えませんか……?』
言葉が通じているからといって読み書きができるとは限らないようだ。
結局口頭で名前と日数を伝え、代わりに書いて貰うこととなった。
早い内にリモーネに読み書きを習おう、そう心に誓う。
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